~目標指向型ケアマネジメントで生活に良循環を!~
近藤明良・田淵紳也
3年後には介護療養型の廃止が決まっており、老健の存続にかけても危機感を持たなければならない時代となりました。背景には、役割に対し「期待した効果が得られなかった」事も一因とされています。療養型の二の舞を演じないためには、老健の理念と、役割を理解し、十分に発揮していく必要があります。
当施設では、家庭は生活の拠点であり、老健は第二の生活の場である。地域との関わり合いの中で往ったり来たりの利用を繰り返し、住み慣れた地域・家庭で老いを生きることを支援していく、と言う理念のもと通所リハビリを中軸に入所・短期入所・居宅介護・包括支援センターとともに「入所と在宅の壁を作らない」サービスを展開しております。
私共はこれを「バザール・ケア」と呼んでおりますが、施設自体が地域社会の縮図のようになっており、大規模多様な関係性の中で利用者の自己決定で一日を過ごすことにより “関係と生活” を見直すきっかけをつかめるよう支援するという「生活リハビリ」の場となっております。
もちろん、療法士からの個別訓練・評価などが受けられる事も重要な役割の一つとなりますが、個別訓練を受けることのみがリハビリであると思い込まれている家族・利用者も多いようです。また、私を始め通所リハビリを十分に理解できていないケアマネが、十分な説明による理解も得られないままに、家族からの要望だけで、安易に通所リハビリが導入されてしまうというケースも少なくないようです。このため、中心に考えなければならないはずの「利用者自身」がカヤの外になってしまい、目標も持てないままに利用開始となり不満を抱かれるという悪循環が起きています。
81歳女性の西さんもその一人です。西さんは脳出血後遺症による右片麻痺が残り要介護3の認定を受けました。退院後すぐに週3回の通リハ・1回のデイサービスを開始されています。サービスの効果があったようで、3ヵ月後の更新認定では要支援となられました。
通リハの担当療法士からは現在の機能を低下させないためには、通リハの利用を中断すべきではないとの意見がありました。しかし、デイサービス事業所との関係もあったため、家族より通リハの利用終了を希望されました。通リハの利用がなくなり半年が経過した次の更新時には歩行の持久性が低下し実用歩行でのレベル低下あり、要介護1の認定となりました。このため居宅を再契約されるとともに通リハを再開し、家人希望にて短期集中リハを利用されることとなりました。
西さんはもともと、障害を負われたことに気落ちされており、生活に対する意欲低下が見られていましたが、退院後、療法士からの訓練も継続して行なわれていたことに伴い、広いバザールの施設内を過ごすことでも適度な活動量が得られていたようです。また、顔なじみの利用者もおり、気の合う利用者と一緒に行う手芸活動などを通じて、心身ともに活発な日常生活を得る事ができていたようです。
しかし、認定更新による制度上の制限から、本人の意向が反映されないまま、デイサービスのみの利用となり活動量が減少したとともに、なじみの利用者・職員との関係も打ち切られてしまいました。
その結果半年後の更新認定では、心身機能の低下あり要介護1の認定を受けました。通リハを再開され、短期集中リハビリも利用されることとなりましたが、利用中断していた間の環境変化が「障害を負った自分」のイメージを更に悪化させていたようで、リハビリ中涙を流されることも見られるようになりました。
短期集中加算も「積極的なリハビリにより身体機能を向上させてほしい。」との家族・ケアマネなどからの要望であり、本人の意向は反映されていませんでした。
半年後の担当者会議では、「現在、持久力的にはやや改善しているが、依存的になられている。利用中は仲の良い利用者とコミュニケーションを楽しんだり、手芸活動も継続されているが抑うつ的な面も見られるため機能訓練は無理強いせず、本人の意向を尊重し、楽しみを増やせるよう支援する。」ということになり、短期集中リハビリも中止されました。
その後、西さんは環境を変えることなく週3回の通リハ・1回のデイサービスにて休むことなく順調に利用できており、まずまず満足の行く生活が送れているようです。
考察としまして、退院後の通リハ利用により一度は心身機能が向上しましたが、認定更新の際、西さんの意向が把握できておらず、家族の意向のみを尊重してしまい、西さんの意図しない環境変化を招いた結果、「障害を負った自分」のイメージを悪化させ生活の悪循環を招いてしまっていたようです。
今後このような失敗を防止し、通リハが生活に活かされるためには、検討段階でケアマネからも十分な説明にて理解が得られるよう知識を深めておく事も必要となりますが、まず、利用者とのコミュニケーションを図る中で、相互信頼関係を構築していくことが重要となります。
そこでケアマネが把握した「望む暮らし」を担当者会議などの場で専門的見地から意見を出し合うことによりニーズを導き出し、共通の目標に向かうための方法を明確にしていく。これを基に段階的な支援を繰り返すことによって一つ一つ達成感が得られ、目標である「望む生活」に向けてモチベーションを高めていくという「目標指向型」のプロセスを取り入れることで、訓練ばかりに囚われることなく、「何のために支援を受けるのか?」という目標を明確にできることを西さんのケースで気づかせてもらいました。
このプロセスの活用により、家族にも納得がいく説明の上で利用者の望む生活を支援していけるよう努力していきたいと思っております。
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