2011年7月14日木曜日

介護老人保健施設中四国ブロック大会 演題発表① インシデントプロセス法

2011年6月25日土曜日、愛媛県今治市で開かれた第五回介護老人保健施設中四国ブロック大会で、2題の発表を行ったので報告します。
まず、第一題目です。
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事例研究法とは介護場面において直面する問題を事例として取り上げ問題解決のために情報収集して多様な観点から問題を分析し解決策を決定する研修技法である。
これを経験することにより職員の問題解決能力や自己啓発意欲の向上、ケアカンファレンスの充実でチームワークが強化されると言われている。


事例研究法には一般事例研法以外にインシデントプロセス法がある。前者は事例提供者が事前に問題解決に必要なすべての情報を収集し提示する方法である。
参加メンバーはその与えられた情報を分析し核心的問題の発見と原因の究明・解決策の立案を図っていく。しかし、事例提供者の準備が大変、すでに終了した事例、成功した事例の発表で参加者が受け身的になりやすいなどの問題がある。


これに対して、後者は、最初に簡単な出来事=インシデントをメンバーに提示する。そして、メンバーとの質疑応答=情報収集を通じてインシデントの背景にある事実関係を明らかにし、問題点の発見と解決策の検討を行う。
私達はこのインシデントプロセス法の利点を認知症介護研修に活用しているので実践報告する。


認知症ケアで日々直面する対応困難な行動心理症状(BPSD)に対して、より専門性の高いケアを実現するために、基礎知識の習得と同時に実際の事例からの学びが重要である。



BPSDに直面した時、限られた情報から仮説に基づいて情報収集し課題を解決していくという現場で日々行われているチームケアのプロセスを研修の中で疑似体験しながら認知症ケアの専門性を深めるにはインシデントプロセス法が適している。




さらに、その困難事例を直接経験していない新人スタッフや別の施設のスタッフに対しても特定の事例からの学びを共有してもらうためにも、この方法を取り入れた研修カリキュラムの充実を図る必要がある。

私達の施設では本年度より、会場で案内のチラシをお配りしているように、認知症専門ケア加算算定施設として、全老健の実地研修Bコース認知症ケアの研修を企画運営することになっている。
施設実習と組み合わせて参加体験型の演習を計画している中にインシデントプロセス法による認知症の事例研究を取り入れる予定である。その準備として2011年2月12日土曜の午後から夜にかけて正味6時間の公開研修を行い、外部の職員の参加も得てこの方法も実施した。
全体の研修の流れの中では、第一部の冒頭、各グループで自己紹介した後、これまでのキャリアの中で思い出に残るインパクトの強い認知症利用者について一人ずつスピーチした。その後、インシデントプロセス法の事例研究に移った。



今回取り上げた事例は、
通所に通い始めた若い認知症の利用者。大勢の中に入ると奇声を発したり、鏡の前に立つと鏡の中の自分の像と会話を始めその場を動かなくなる(鏡現象)。




以下のような演習計画で実施した。
■1)インシデントプロセス法についてのオリエンテーション 
■2)事例の提示 
■3)グループで問題解決のために必要な情報は何か?質問を考え、全体で事例提供者に対して質疑応答を行う。このプロセスは一枚の白紙に「アセスメント・マップ」としてまとめる。 
■4)得られた情報をグループで分析評価し「援助マップ」としてまとめ全体発表する。
■5)最後に、取り上げた本事例に対して当施設として実際はどのように取り組んで、現在どうなっているか紹介する。
■6)各グループで演習全体の振り返り。

















研修終了後アンケートを取りその結果を元に企画チームで振り返りを行った。
アンケート結果からは「グループ討議で意見を出し合うことで多様な視点で一人の利用者の全体像を膨らませたり、隠されたニーズを拾い上げることができた」と、この研修方法に対して肯定的な評価が多く得られた。
ただ、上の手順の■6)が120分間の時間配分のまずさからできなかった。一連の演習プロセスを各グループで振り返ることで、
仮説に基づく的確な情報収集ができたか、
収集した情報から中核的課題が抽出できたか、
基礎知識に基づく解決策が提起できたか、
グループ討議のプロセスにメンバーが十分参画できたか、
といったポイントで更に学びを深めることできると考えられる。


この困難事例を研修で取り上げるに当たり、事例提供者は参加メンバーからのあらゆる質問に答えられるようにもう一度情報の整理を行った。直接その事例に当っていない他施設の職員むけの研修でも事例の全体像を示し事例からの学びを促進できるように準備した。
したがって、一般事例研究で要求される網羅的な利用者情報の整理や援助経過の記録整理はインシデントプロセス法を研修として企画運営する際にも事例提供者側に要求されることが明らかになった。
また、事例提供者とは別に演習の流れを指導する側で、時間配分・演習課題のスライドでの明示・成果物のモデル提示など演習からの学びの促進のためのスキルアップの必要性が明らかとなった。


認知症の困難事例からのより実践的で現場的な学びを促進する研修技法としてインシデント・プロセス法を活用することの有効性が確認できた。
今後の課題としては、仮説力向上のための認知症介護の基礎知識の普及・振り返りも含めたグループ演習のプロセスをより効果的に進行・運営するための演習指導者のスキルアップなどに取り組んでいきたい。

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