2009年8月1日土曜日

バザールケアで通所とショートを併用  全国老健大会2007年名古屋発表

『バザール・ケア』で通所とショートを併用! ~大規模・多様な関係性の中で得られた安心感!~
     
    近藤明良



当施設は、岡山県の南西部、倉敷市真備町というところに位置し、施設周辺は自然に恵まれた環境であり、交通の便も良く誰からでも目に付く場所に立地しております。
 私どもの施設では『バザール・ケア』という基本方針の下に運営が行われておりますが、まずは、施設のフロア構成・コンセプトから『バザール・ケア』について簡単に説明させていただきます。


当施設は2階3階が入所フロアで全室個室となっているのに対し、4階5階は入所通所共有のフロアとなっており、日中は主に4階で入混じって過ごし、お風呂も5階にて一緒に入浴されています。また、1階には事務所・居宅部門とともに、利用者はもちろん職員・外部の方も自由に利用できる喫茶店があり、入所・短期入所・通所といったサービスごとの壁をなくし、地域社会に開かれた大集団を作り出しています。


この『バザール・ケア』の長所を発揮するため、職員チームが個々の利用者に合わせて計画した関わりにより、通いなれた施設にいざという時には「お泊り」し最終的には長期入所になっても一度形成された施設や職員、他の利用者との「なじみの関係」は維持できる。という運営方法を展開しております。
では、この『バザール・ケア』がうまく生かされていると思われる“小田さん”のケースを紹介させていただきます。



 小田さんは高齢者夫婦世帯の方です。難聴や視力障害などによりコミュニケーションに障害を来たし、次第に不活発な日常を送るようになりました。この不活発な状態が日常生活自体を不安なものとし、更なる心身機能の低下・行動障害をももたらしました。また、主介護者である妻も介護に自身をなくしかけている状態でありました。そんな小田さんに普通の生活を取り戻していただくため“通い”から「バザール」を利用していただくようになりました。


入浴好きであり、お風呂に入れるということでスムーズな導入が出来ましたが、週1回の通所では不安を取り除くにはいたらず、1年後にはさらに機能低下が進行していました。昼夜逆転傾向にあり、危険な足取りで夜間外へ出て大声で喋るなどの周辺症状も出現していました。このため、泊まりのサービスも導入しましたが、日中はなじみの4階フロアで落ち着いて過ごされるものの、夜になると不穏になり廊下へ出て夜通し大声で喋る。それにより他利用者が寝られない。という対応困難な状態が続きました。


 そんなある日のショートステイでの事、この日は朝迎えが行くと、本人・奥さんともに入所日であることを理解されておらず「拒否された」と連絡を受けたためケアマネである私が訪問しました。
 ちょうど長男夫婦が送り出しに来られており、説得したが応じないとの事で途中私も話に入らせてもらいました。すると、定期訪問や通所でも顔を合わせていたためか私を覚えてくれており、私の声が低く聞き取りやすかった事も幸いしてか徐々に誘いに乗ってこられ、参加となりました。


 初日は入所後より顔を合わせてなかったためか、夕食後入所棟より「落ち着かないので来てほしい」と連絡があり面会に行くと食堂に「近藤さんと話がしたかった!」と待っておられました。
 そんな小田さんの話に耳を傾けていたところ、同じような理由でショート利用中の尾崎さんが話しに入ってこられ3人での対話が始まりました。話しに筋はないものの私を介して、途中戦争の話題で盛り上がる事もありました。しばらく話すと、納得されたようで勧めたお茶を飲まれ自室誘導により素直に就寝、朝まで良眠されています。


翌日は朝より、「近藤さんは?」と探されていたようですが日中は挨拶程度を交わしておき、就寝前に再度面会しています。コーヒーを飲みながらゆっくり話を聞くことにより落ち着かれたようで、この日も機嫌よく就寝し朝まで良眠されています。
 最終日は、家族の迎えにて帰れる事を伝えると、嬉しそうにされ「また来ます!」と機嫌良く帰られています。
この2泊3日がきっかけとなり、現在では継続する『バザール・ケア』の中で、小田さん自らが戦友などなじみの関係を見つけて生き生きと過ごされています。






【考察】
 小田さんはコミュニケーションが障害された事により不安な日常生活を送り、周辺症状まで引き起こしました。しかし、症状だけを捉え認知症の方だけを集めた専門棟に隔離されるのではなく、(規範を示してくれる)しっかりした利用者・共感できる利用者・イザと言う時に頼れる仲間(職員など)の存在する「バザール」の中で一人の利用者として、日中はなじみの4階フロア、夜間も顔見知りの利用者・職員の中で過ごし、入所・通所・地域社会との切れ目ない関係性の中で、この2泊3日の初日、「尾崎さんと戦争の話で盛り上がった」ということを“きっかけ”に小田さんらしさが発揮できたとともに、落ち着いた生活をも取り戻すことが出来たと思われます。






 このように、一人のお年寄りを職員側の都合で選別しない「利用者と職員の開かれた多様な関係性=「バザール」の中の一人として対応を個別化し、その人らしさが発揮できるよう『信頼できる代理人』となり“バザールを「カスタマイズ」”したことによって、不安を解消する事ができたと思われます。

【課題】
 ケアマネも、『信頼できる代理人』となれるよう『対話』を積み重ねていく中での気づきを「バザール・ケア」の中でも共有することにより「その人らしさ」を発揮できる環境を得ていただき、『頼れる仲間』として長期安定的な関係を築き継続したいと思います。

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