2009年8月1日土曜日

Lawton感情評価スケールの活用  全国老健大会2005年横浜での発表

                      大熊明美  





【はじめに】老人保健施設ライフタウンまび(以下当施設)の通所リハビリテーション(以下通所リハビリ)では、開所当初より認知症高齢者も積極的に受け入れてきたが、最近その重度化が目立ってきている。

重度認知症高齢者のケアでは認知機能やADLといった身体機能の変化は少ないものの、笑顔が出てきた、表情が豊かになった、その場に馴染んで落ち着きが出てきた等、感情面に変化が確認される場合がある。
しかしながら、当施設の通所リハビリにおいて感情面のアセスメントは統一されておらず、利用者の変化や反応を職員間で共有し、それを通所リハビリ計画に反映できていないのが現状である。

この為、重度認知症高齢者の感情面のアセスメント手法として、身体的サインから感情を分類している LawtonのPhiladelphia Geriatric Center Affect Rating Scale(以下情動スケール)を参考に取り入れ、アセスメントについて再考した。
今回、重度認知症で意思疎通が難しい寝たきり状態の一症例に用い、若干の考察を得たので報告する。




【感情面のアセスメント】Lawtonの情動スケールは通常、評価者が20分間の面接で対象者を観察し、評価項目に示されている感情の持続時間を評価するスケールであり、主観的QOLの評価手法の一つとして用いられる。
しかし、今回は主観的QOLの評価をするのではなく、表出している「身体的サイン(=徴候)」とそのサインを「楽しみ 怒り 不安/恐れ 抑うつ/悲哀 関心 満足」の6項目の感情に分類している点に注目し、重度認知症高齢者の感情面のアセスメントとして参考にした。
感情面のアセスメントは評価できない場合を9で表示し、評価項目に示されている感情の持続時間を1(=なし)から5(=5分以上)までの6段階の数字で表した。
また、場面が感情を表出する要因として重要であると考えた為、アセスメント場面を記載した。





【事例紹介】男性 年齢83歳 老人性痴呆 脳梗塞 
平成8年脳梗塞・左片麻痺の診断で入院後、ADL自立し独歩にて在宅復帰。
平成14年2月頃から記憶障害が出現。
平成15年11月妻の死後、認知症状が進行し寝たきり状態となる。
平成17年2月当施設通所リハ開始。要介護度5 四肢拘縮、頚部・体幹の運動制限あり。リクライニング車椅子を使用、ADLは全介助。会話不成立で意思疎通困難な場合が多い。何らかの刺激がなければ傾眠に陥り易い。ClinicalDementiaRating CDR=3 
事例のアセスメントは個別機能訓練を実施している40分間を評価場面とし、身体的サイン(=徴候)とその持続時間を観察、身体的サインが表出した訓練内容・訓練実施者の働きかけや刺激を評価用紙に記述した。



【アセスメントの結果】
「快」の感情 楽しみ・関心・満足について  
 楽しみ=2:車椅子座位訓練時コーヒーカップをテーブルにセッティングするとコーヒーカップを注視後、右手を伸ばしカップを持とうとする。
関心=3:近くを通った職員を目で追う。レクリェーションの音楽や職員・利用者の声がする方に顔を向ける。 
満足=3:半臥位でリラクセーション時、緊張なく穏やかで目を閉じる。
「不快」の感情 怒り・不安/恐れ・抑うつ/悲哀について
怒り=3:下肢関節可動域訓練時 顔をしかめる・眉をひそめる・訓練士を叩こうとする。 
不安/恐れ=2:座位バランス訓練時 瞬きが増え手を握りしめる。 
抑うつ/悲哀=3:訓練経過30分後 突然「かえろー、かえろー、(通所介護施設名)へかえろー」と嘆くような発言。
楽しみ 不安/恐れの2項目については表出した身体的サインの持続時間が15秒以下と短い。怒り 抑うつ/悲哀 関心 満足の4項目では前記2項目に比べ、身体的サインの持続時間が長く出現回数も多かった。
事例は自身の感情を伝え難く、他者からもその気持を推し量りにくいと思われたが、アセスメントからは、楽しみ 関心 満足といった「快」の感情と 怒り 不安/恐れ 抑うつ/悲哀といった「不快」の感情が確認できた。


                     
【考察】
本事例は、コーヒーの入ったカップを見せると見つめた後手を延ばし持とうとする動作が見られ、コーヒーを飲むことが楽しみ「快」の感情を表し、また関節可動域訓練に対し顔をしかめ眉をひそめるといった表情で、怒り「不快」の感情を表していた。今回試用した感情面のアセスメントでは表出した感情がどの働きかけや刺激に基づいているかを記述した為、「快」「不快」の感情が何に起因するか具体的になり、職員間での情報の共有をより容易にし、通所リハビリ計画に反映する上で参考になると考える。また、このようなアセスメントに基づき、より多く「快」感情を引き出す場面をつくり、働きかけや刺激を増やす一方、「不快」感情の要因を減らすことで、重度認知症高齢者の主観的QOL向上への手がかりになるのではないかと考える。

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